内容紹介
結節性硬化症は,多くの臓器に形成異常や腫瘍が発生する常染色体優性の遺伝性疾患である。腎臓では,血管筋脂肪腫を好発することがよく知られている。この腎血管筋脂肪腫自体は脂肪腫,筋腫,血管腫から構成される良性腫瘍であるが,両側性に発生し,巨大化することで治療に苦慮することが多いとされる。また,腫瘍内に動脈瘤が発生し,それが破裂することで腫瘍内出血,肉眼的血尿などが起こり,生命の危機を来す可能性も指摘されている。治療として,これまでは経動脈的塞栓術や手術療法などが実施されてきたが,同側腎への再発や対側腎への腫瘍発生の問題で治療に難渋することが多くみられた。しかし,結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の発症に関わるmTORシグナルを遮断するエベロリムスがこれら腫瘍に有効であることが臨床研究(EXIST-2試験)で証明され,多くの患者さんに使われるようになってきた。このような状況で,結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の診断,治療法に関する診療ガイドラインが,2016年に野々村祝夫 作成委員長のもと日本泌尿器科学会と日本結節性硬化症学会が共同して作成された。このガイドラインは,稀少疾患である結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の診療における必携の書として広く使用され,高い評価を受けてきた。
しかし,初版発刊後6年を経て,結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に関しても新たなエビデンスも加わっている。また,これまでに実施されてきた経動脈的塞栓術や手術療法に加え,エベロリムスを用いた全身治療をどのように使い分けるか,これら治療に伴う有害事象や合併症にどう対応すべきかなど,新たな臨床的課題も問題になってきている。それらの点を考慮して,今回,結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する診療ガイドラインの改訂が行われた。本ガイドラインが結節性硬化症治療に取り組む医療関係者また疾患に苦しむ患者さんやご家族の方々のために役立てていただけることを切に願っている。
最後に日本泌尿器科学会,日本結節性硬化症学会から選ばれ,この改訂にご尽力いただいた各先生方に心から感謝申し上げる。
(篠原信雄「序」より)
目次
1 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫 総論
1 結節性硬化症の疫学,病態
2 結節性硬化症に伴う腎病変の病理所見や頻度,その後の経過
3 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の診断に有用な症状
4 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の画像診断
2 Background⦆Questions BQ
BQ1 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫において遺伝学的検査の意義はなにか?
BQ2 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対して,治療を開始する指標となる検査所見はなにか?
BQ3 結節性硬化症に伴う腎のサーベイランス(監視)はどのように行うべきか?
BQ4 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する手術療法は推奨されるか?
3 Clinical Questions CQ
CQ1 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する予防的腎動脈塞栓術は推奨されるか?
CQ2 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する緊急腎動脈塞栓術は推奨されるか?
CQ3 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対するエベロリムスの使用は推奨されるか?
4 Future Questions FQ
FQ1 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する経皮的アブレーション治療はどのような症例で推奨されるか?
FQ2 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対しエベロリムスが奏効した場合,エベロリムス治療の中断・中止,もしくは減量投与は推奨されるか?
FQ3 結節性硬化症に伴う小児の腎血管筋脂肪腫に対するエベロリムスの使用は推奨されるか?