内容紹介
本書は初版の刊行からすでに15 年以上経ちました。2020 年には『特発性正常圧水頭症(iNPH)診療ガイドライン 第3 版』も発刊され,iNPHもかなり認知されてきております。腰部くも膜下腔・腹腔短絡術(LPシャント)の実施率は,1996 年の全国調査では約5%でありましたが,2012 年には約55.1%と飛躍的に上昇しており,最近ではさらに多くなっていると考えられます。その間,LPシャントに関してはわが国の多施設共同ランダム化比較試験(SINPHONI-2)で,iNPHの治療においてVPシャントに比して,改善率,有害事象共に有意差はないとされ,VPシャントに対するLPシャントの非劣性が証明されました。以来,LPシャントは脳に穿刺をしない低侵態で高齢者にやさしい手術として注目され,海外でも増加傾向にあるようです。
本術式が普及し,iNPHの知見が拡がることは大変喜ばしいことです。しかし,われわれの正常圧水頭症センターには全国からさまざまなセカンドオピニオンの相談が絶えません。タップテストで症状は改善したのに,術後まったく改善のみられない方が紹介状持参で受診されます。シャント造影で脊髄側チューブの閉塞を確認し,再建し症状は改善しました。退院して2~3 日後,都内の親戚宅で静養し,帰郷の予定でしたが,2 日目の夜に嘔吐,意識障害で救急再入院となり,精査の結果,頸部脊柱管狭窄症による急性閉塞性水頭症でした。地方の大きな基幹病院で脳外科医なら誰でも知っている有名な施設でしたので,手術適応はまったく疑わずに再建をしたのですが肝を冷やしました。Whole spine のチェックは必須です。LPシャントは技術もさることながら,適応,禁忌,合併症の学びも十分にお願いしたいと考えます。
初版の序文にも記しましたが,LPシャント術そのものには難しい手技はありません。Spinal drainage などで慣れた技術と,VPシャントでの腹部操作の組み合わせと考えてください。
しかし,対象の大半を占めるであろうiNPHの患者さんは高齢者です。腰椎の変形,仮骨化,圧迫骨折後,腹部の術後,腹膜炎術後状態など,困難なケースも多くあります。各々の症例ごとに智恵を出し合って十分検討してください。
本書にも,さまざまな先生方の新しい工夫を紹介しております。読者の先生方も新しい工夫,手技をどんどん報告していただき,少しでも安全な手技の確立に資する喜びを本書から感じ取っていただければ望外の幸せです。
(桑名信匡「序文」より)
目次
第Ⅰ章
LPシャントの歴史/桑名信匡
第Ⅱ章
LPシャント手術の実際/渡邊 玲,他
第Ⅲ章
LPシャント高齢者への抗血小板薬・抗凝固薬の扱い方/鮫島直之,他
第Ⅳ章
LPシャント手術の合併症/石田敦士
第Ⅴ章
LPシャントの造影法と再建術/鮫島直之,他
第Ⅵ章
LPシャント 種々の工夫
① 局部麻酔下腰椎腹腔短絡術とリング開創器(CEAリング)の有用性/笹口修男
② 局所麻酔と腹部処置の工夫/川原 隆
③ イメージガイドでの傍正中および腹直筋外縁アプローチ/梶本宜永
④ LPシャントのより確実な手技のための穿刺角度計測法の構築と穿刺ガイドの開発/秋葉ちひろ,他
⑤ 側腹部アプローチ/後藤幸大
⑥ 画像支援ナビゲーションシステムを用いたLP シャント/鮫島直之,他
第Ⅶ章
LPシャント手術 手洗い・外回り看護の展開/東海林未央,他
第Ⅷ章
LPシャントクリニカルパス/渡邊 玲,他