内容紹介
『前立腺癌診療ガイドライン』は2006 年に初版,2012 年に第2版,2016 年に第3版が刊行されており,この度7年ぶりに改訂版を刊行しました。本ガイドラインは泌尿器科医のみならず前立腺癌診療に携わる多くの医療従事者に利用され,本邦の診療実態に沿った内容は多くの方々から高い評価を得てきたと思われます。
本診療ガイドラインの目的は,本邦における前立腺癌患者の生存期間やQOL等も含めた治療成績向上にあります。前立腺癌は男性で最も高い罹患率の癌のひとつとなっており,今後も高齢化がますます進む本邦ではしばらくの間この傾向が続くものと予想されています。前立腺癌診療は診断から治療に至るまで非常に多岐にわたり,新しい知見が次々と明らかにされており,常に知識のアップデートが必要とされています。2016 年の第3版刊行以降,マーカー,画像診断,監視療法,focal therapy,手術療法,放射線療法,薬物療法,ゲノム医療とすべての分野において新たな知見が次々と蓄積されており,このような前立腺癌診療を取り巻く状況の変化を鑑みると,『前立腺癌診療ガイドライン』が改訂されたことは,まさに時宜を得たものであります。
今回の改訂版では,新たなエビデンスを取り入れたup-to-date な内容となっていると同時に,これまでにない先進的な取り組みがなされています。作成組織には,泌尿器科・画像診断・放射線治療・腫瘍内科の医師,統計やEBM の専門家に加えて,患者団体の方にも加わって頂いており,本診療ガイドラインの出版後に患者・市民向け解説書も作成される予定です。また,総論とクリニカルクエスチョンを柱とした従来の形式を踏襲しつつも,クリニカルクエスチョンでは今回から新たにシステマティックレビューが取り入れられており,PICO 形式のクリニカルクエスチョンについて,アウトカムの重要性の評価とともに,改訂委員の先生方の投票による合意形成プロセスが開示されており作成過程の透明性が確保されています。
最後になりますが,原 勲委員長をはじめとして本ガイドラインの改訂作業に従事をされた皆様のご尽力に心より感謝を申し上げます。今後,本ガイドラインが本邦の前立腺癌診療の道標となることを心より祈念しております。
(江藤 正俊「序」より)
目次
序章
第1 章本診療ガイドラインについて
1. 本診療ガイドラインの目的
2. 改訂の目的
3. 本診療ガイドラインの適応が想定される対象者,および想定される利用者
4. 本診療ガイドラインを使用する場合の注意事項
5. 改訂診療ガイドラインの特徴
6. 重要臨床課題・クリニカルクエスチョン(CQ)の設定(2020年4月28日~ 2020年9月16日)
7. システマティックレビュー(SR)
8. 推奨決定の方法
9. 総論作成について
10. 診療ガイドライン改訂作業の実際
11. 外部評価およびパブリックコメント
12. 今後の改訂
13. 診療ガイドライン出版後のモニタリング
14. 資金
15. 利益相反(COI)に関して
16. 診療ガイドライン普及と活用促進のための工夫
17. 患者・市民向け解説書
第2 章クリニカルクエスチョンと推奨
CQ1. 中高年男性に対するPSA検査による前立腺がん検診は推奨されるか?
CQ2. PSA高値の患者に対して,生検前のMRI撮影は推奨されるか?
CQ3. 前立腺癌(初発/局所再発)のMRI診断において,造影MRIを省略することは推奨されるか?
CQ4. 転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)患者におけるゲノム診断に基づく個別化治療は推奨されるか?
CQ5. 中間リスク前立腺癌に対する監視療法は推奨されるか?
CQ6. 前立腺全摘除術(RP)における拡大リンパ節郭清は推奨されるか?
CQ7. 局所進行性前立腺癌や高リスク前立腺癌の一次治療として,手術療法とホルモン療法併用放射線療法のどちらが推奨されるか?
CQ8. 中間・高リスク前立腺癌に対する高線量放射線療法において,ホルモン療法の併用は推奨されるか?
CQ9a. 前立腺癌に対する根治的放射線外照射(EBRT)において,中等度寡分割照射(MHF)は推奨されるか?
CQ9b. 前立腺癌に対する根治的放射線外照射(EBRT)において,超寡分割照射は推奨されるか?
CQ10. 高リスク前立腺癌に対する放射線療法として,永久挿入密封小線源療法(LDR)+外照射(EBRT)+ホルモン療法(tri-modality)は推奨されるか?
CQ11. 転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)に対する一次ホルモン療法の併用薬として,ドセタキセル(DTX)と新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)のいずれが推奨されるか?
CQ12. 非転移性去勢抵抗性前立腺癌(nmCRPC)に対する一次治療として,新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)は推奨されるか?
CQ13. 転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)に対するアップフロント療法(新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)/ドセタキセル(DTX))後の転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の一次治療として,未使用のARSIとDTXのどちらが推奨されるか?
CQ14. 去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)(内臓転移なし・骨転移あり)に対する新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)の使用時に,塩化ラジウム223(Ra-223)の併用は推奨されるか?
第3 章総論
1. 疫学
2. 検診
3. マーカー・生検
4. 画像診断
5. 病理・遺伝子異常
6. 監視療法
7. 前立腺全摘除術
8. 放射線療法(外照射)
9. 放射線療法(組織内照射)
10. Focal therapy
11. 一次ホルモン療法
12. 去勢抵抗性前立腺癌
13. 骨転移治療
14. 癌救急 緩和
●外部評価およびパブリックコメントの結果
●付録