内容紹介
2000年頃より腫瘍循環器(Onco-Cardiology)が一つの医療分野としての必要性を増している。がんと循環器疾患の両者の関係は、1800年代前半からJean-Baptiste Bouillaudによりがんと血栓との関連が報告されていたものの両者の関係は決して深まることなく、循環器疾患合併症例における術前評価や周術期管理、心臓腫瘍やがん性心膜炎の評価や治療などに限定的であった。一方、1970年代にアントラサイクリン系抗腫瘍薬による心毒性が報告されて以来、がん治療に伴う心血管合併症(心血管毒性)は、がん治療が進歩し集学的治療を要する症例が増加するなか、その頻度が増加している。分子標的薬を含むがん化学療法や放射線療法が目覚ましい進歩を遂げがんの予後が向上しているなか、心血管毒性への適切な対応はがん患者の生命予後やQOLを左右する大きな要因となり、ますます注目されている。免疫チェックポイント阻害薬投与時に出現する劇症心筋炎など循環器医の専門的な対応が必要な症例は増加しており、循環器医もがん治療を理解して腫瘍医とともに心血管毒性を管理する必要に迫られている。しかしながら、我が国においてがん治療の心血管毒性に関するリスク層別化方法や特異的な治療法、エビデンスに基づいた治療法は確立されていない。
この度、『腫瘍循環器ガイド Onco-Cardiology』を編集する機会をいただいた。本ガイドブックは我が国では初めて腫瘍循環器領域に着目し2013年より大阪地区で開催されている「大阪腫瘍循環器研究会」において発表された症例報告を中心に、最新のがん治療やそれに伴う心血管毒性に関する情報を盛り込んで編集した。新しい学際領域である腫瘍循環器医のニーズが高まり全国的に最も注目されているこの領域で、実際に臨床の現場に携わる循環器医が具体的な症例を呈示し解説する本ガイドブックは他書とは一線を画するものと考えている。本ガイドブックからこの新しい分野の現状と課題がより多くの読者に伝わり、今後の腫瘍循環器学の発展の一助となれば幸いである。
(「編集の言葉」より抜粋)
目次
Ⅰ 総説編
Ⅱ 症例編
抗腫瘍薬全般
アドリアマイシン
分子標的薬
心血管系由来悪性腫瘍
腫瘍塞栓
血栓塞栓症
Ⅲ 資料編