- トップ >
- 糖尿病・内分泌・代謝 >
- その他 >
- ヌーナン症候群のマネジメント
-
-
定価 3,850円(本体3,500円+税) 版 型 A4判 頁 数 128頁 ISBN 978-4-7792-2002-9 発売日 2017年12月4日 監修 緒方勤 編集 『ヌーナン症候群のマネジメント』編集委員会
内容紹介
・歴史的背景
ヌーナン症候群(Noonan syndrome;NS)は,Jacqueline Noonanが1968年にEhmkeと共同で発表した「Associated noncardiac malformations in children with congenital heart disease. 」(J Pediatr.1963;31:150-3.),および,その後に発表した「Hypertelorism with Turner phenotype.A new syndrome with associated congenital heart disease.」(Am J Dis Child.1968;116:373-80.)に由来する疾患である。なお,歴史的には,Koblinskyが1883年にヌーナン症候群と思われる症例を記載し,Weissenbergが1928年にヌーナン症候群に一致する症例の完全な記載を行っている。ターナー症候群表現型との類似性から,男性における本症候群は,「male Turner syndrome」と表現された時期もある。ヌーナン症候群患者の核型が正常であることが判明し,ヌーナン症候群がターナー症候群とは異なる疾患であることが明確となった。その発症頻度は,出生1,000~2,500人に一人とされるが,軽症の未診断症例が存在すると思われることから,出生600人に1人程度とも推定されている。その後,コステロ症候群,LEOPARD症群,CFC(cardio-facio-cutaneous)症候群などが,その疾患類似性からヌーナン症候群類縁疾患とみなされるようになった。
・臨床的発展
ヌーナン症候群は,基本的に臨床診断に基づく疾患である。そして,さまざまな臨床診断基準が提唱されているが,現在最も広く用いられているのはvan der Burgtの臨床診断クライテリアである。これは,オランダにおけるヌーナン症候群の大家系の症状に基づいて提唱された。この診断基準はきわめて優れているが,最も重要な症状が「特徴的顔貌」という主観的判断に基づくことから,臨床的経験が要求される。また,ヌーナン症候群の臨床像は年齢とともに変化することが知られており,典型的な症状は乳幼児期に観察されることが多い。ヌーナン症候群は,小児慢性特定疾病(内分泌疾患94)として承認され,さらに,最近,指定難病(195)としても承認された。これは患者・家族にとって大きな福音となっていると思われる。また、ヌーナン症候群類縁疾患であるコステロ症候群やCFC症候群も,小児慢性特定疾病と指定難病の指定を受けている。
・研究的発展
ヌーナン症候群責任遺伝子の同定は,古典的なマイクロサテライトを用いたオランダの大家系に対する遺伝子マッピングから始まった。ヌーナン症候群責任遺伝子は,まず第12染色体長腕12q24領域にマップされ,その後,さらなる限局化が行われた。そして,ヌーナン症候群患者に対して,決定領域に存在する遺伝子に対する網羅的変異解析が行われ,2001年,最初の責任遺伝子PTPN11(protein-tyrosine phosphatase,non-receptor type 11)が同定された。PTPN11は,リン酸化によって開始されたシグナル伝達をphosphatase活性により脱リン酸化する作用を有し,チロシンキナーゼ内在型受容体およびサイトカイン型受容体を介するシグナル伝達の制御物質として作用する。そして,変異PTPN11は,この脱リン酸化機能亢進状態を生じることでヌーナン症候群発症を招く。
このPTPN11の発見は,2つの大きな成果となって結実している。第1は,その後同定されたヌーナン症候群および類縁疾患の責任遺伝子が,PTPN11が関与するRAS/MAPKシグナル伝達経路において同定されていることである。これは,RAS opathyあるいはRAS/MAPK異常症という新しい疾患概念を生み出した。第2は,腫瘍発症遺伝子の進展である。PTPN11の重度機能亢進が,JMML(juvenile myelomonocytic leukemia:若年性骨髄単球性白血病)という白血病の原因であることが判明し,また,その後,RAS/MAPKシグナル伝達経路の機能亢進が多くの腫瘍で同定されている。
・今後の展望
ヌーナン症候群の臨床・研究における展望として,以下について述べたい。
第1は,ヌーナン症候群における従来の治療法の適用である。その代表は,ヌーナン症候群の中核的症状である低身長に対する成長ホルモン(GH)治療である。ヌーナン症候群におけるGH治療は,米国,スイス,韓国,ブラジル,イスラエル,フィリピンにおいて認められ,現在までの知見は,登録年齢,治療期間,用量,反応が異なる少数の患者を対象とした報告であり,その記載法(中央値か平均値か,身長のSDスコアが母集団の基準値かNS固有の基準値か)や使用量も異なるが,概ね,GH療法の開始が早いほど,また治療期間が長いほど,身長予後は改善している(△身長SDスコア:1.3~1.7;平均身長の増加:男児が9.5~13cm,女児が9.0~9.8cm)。ここで,GH治療の効果を評価するうえで必須となるヌーナン症候群特異的成長曲線が,欧州とともにわが国においても作成されたことは特筆に値する。今後,ヌーナン症候群におけるGH治療の効果が正確に評価され,臨床応用に結実すると期待される。
第2は,基礎研究の発展である。Zebra fishなどを用いた変異導入モデル生物の作製による形態的観察や機能評価が可能となり,疾患成立機序が明確となってきている。さらに,RAS/MARKシグナル伝達経路の疾患に対する治療法の開発も進んでいる。今後,根源的治療法が存在しなかった機能亢進変異に起因する本疾患において,原因療法が開発されると期待される。
(緒方 勤「序」より抜粋)
目次
1.臨床診断/黒澤健司
2.病態
1 ヌーナン症候群の成長パターン/磯島 豪/横谷 進
2 ヌーナン症候群の身体・発達の特徴/岡本伸彦
3 ヌーナン症候群と心疾患/石崎怜奈/山岸敬幸
4 病態のその他(合併症,検査所見および精神発達など)/志村和浩/長谷川奉延
3.遺伝子診断/新堀哲也/青木洋子
4.類縁疾患/青木洋子
5.治療管理
1 GH治療
1-1ヌーナン症候群における低身長に対するGH治療の実施上の注意/神崎 晋/横谷 進
1-2日本での臨床試験結果/堀川玲子
1-3海外での使用経験/大薗恵一
2 心疾患の治療管理/小垣滋豊
3 トータルサポート/大橋博文
4 年齢別の治療管理指針/松原洋一
5 遺伝カウンセリング/黒澤健司
6.患者団体,患者支援団体
おでこちゃんクラブについて/松下純子
手記 交流会に参加して
嬉しかったこと―近況報告として―
近況報告 そして~今までを振り返って
コラム―基礎研究からのフィードバック:新たな治療法開発に向けて
1 心筋症の研究/小垣滋豊
2 欧米における研究の最前線/井上晋一/青木洋子