内容紹介
がんにかかる人は増加の一途をたどり、2人に1人の日本人が生涯でがんに罹患すると推計されており、がんは誰もがかかるありふれた病気になりました。一方、がんの治療成績は着実に向上し最近では7割近い5年生存率が得られており、かつてがんが「不治の病」と恐れられた時代からすると隔世の感があります。以前は不良な治療成績を少しでも改善することに全力が注がれ、治療に伴って生じる障がいや生活の不自由さに注意が払われることはほとんどありませんでした。しかし、治療成績の向上とともにがんの医療も大きな変貌をとげ、患者さんのQOL(生活の質)を大切にする空気が醸成されてきました。そのような背景のなか、2016年末にがん対策基本法が10年ぶりに改正されましたが、基本理念としてがん医療そのものよりも、がん患者がかかえる多くの社会的問題への対処、がん患者が安心して暮らすことのできる社会の構築、必要な支援を受けられるようにすることを明記したことが注目を集めました。
このように、がんにかかってさまざまな治療を受けても、患者がそれまで通りの生活を送ることができるよう皆でサポートしていくことが必要です。患者の生活には多様なものが含まれますが、最も重要な根幹をなすものは食事であることに異論はないと思います。がんの治療によるダメージからできるだけ早く回復し元通りになるためには、十分な食事摂取による栄養が必須ですし、がんを克服する体力や精神的な安定のためにも食事をとることは重要です。いつの時代であっても食事は栄養摂取のために大切でしたが、特にグルメという言葉が流行している現代では、食事は文化的な楽しみであり、人間関係を構築するためのコミュニケーション手段でもあり、その重要性は高まっています。しかし、これまで医療者側からの視点での栄養管理に重きを置いた本は多く見られましたが、患者の立場に立って、治療中の苦しいときに何を食べたらよいのか、何を食べたら元気になるのか、どんなものを食べたらがんをがんを克服できるのか、などについて述べられた本はほとんどなかったと思います。
大阪府立成人病センターはわが国で最初に創設された成人病センターですが、このたび、新築移転して名称も
「大阪国際がんセンター」と変えて新しい出発をすることになりました。これを機に新センターではこれまで実践してきた高度医療に加えて、まさに本書のとおり「患者さん目線」に立って患者のためになることを徹底して行う方針であります。そのなかで最も重要視している食事についてのガイドブックを、患者の立場からもわかりやすいように、総力を結集して作成しました。ぜひ本書を手にとって、がんにかかったときの食事に関する疑問を解決し、おいしく楽しく食事をとり、元気になっていただければと思います。本書ががん患者さんやご家族のお役に立つことを願ってやみません。
(松浦成昭「序文」より)
目次
第1章 口から食べることの意義 ―治療と精神の両面から―/山﨑知行
第2章 がんと体重減少/矢野雅彦
第3章 がん手術患者の栄養と食事
■01 咀嚼・嚥下機能の重要性/内橋俊大/平岡慎一郎/古郷幹彦
最近の話題(1)咀嚼・嚥下障害や消化管通過障害へ配慮した食事を楽しむ!/飯島正平
■02 術後早期に回復するための食事の工夫と手術の消化管機能への影響/柳本喜智
最近の話題(2)シンバイオティクスとがん治療/矢野雅彦
■03 術後患者の食事の実際/松岡美緒
COLUMN 脂肪の減らし順/塩分の減らし順/塩分調整について/「軟菜食」には明確な決まりがない!/「差し入れOK」はどんなものでもOKなのか?
第4章 抗がん剤・放射線治療患者の栄養と食事
■01 抗がん剤治療の有害事象(副作用)―特に食事との関連で―/吉波哲大
■02 放射線治療の有害事象(副作用)―特に食事との関連で―/金山尚之/手島昭樹
■03 味覚異常・唾液分泌異常/飯島正平
COLUMN
■04 化学療法・放射線治療中の食事の工夫/谷口祐子
■05 口腔粘膜炎(口内炎)を軽減する栄養剤と支持療法/加治木祐子/大西淑美
COLUMN がん治療と口腔衛生管理用品
付録 抗がん剤と食事の相互作用・禁忌食品/菊地秀与/須永克佳/日比野康英
COLUMN 食品の多様化と医薬品との相互作用
第5章 口から食べられない患者の栄養
■01 口から食べられない場合の栄養療法/高橋秀典
■02 経腸栄養と経静脈栄養/高橋幸三/石床知佐江
第6章 がん患者の心理と食事/森 則夫
第7章 がん患者の免疫機能を高める栄養と食事/飯島正平
COLUMN ω6系脂肪酸は不要か?
第8章 がん悪液質患者の栄養と食事/丸川聡子
COLUMN サルコペニア
巻末
・添付文書に口腔内苦味や味覚障害・異常の記載がある薬剤一覧(第4章03対応)
・抗がん剤と食事の相互作用・禁忌食品(第4章付録対応 添付文書情報集)
・患者さんからよく聞かれるQ&A
患者さんからのメッセージ