内容紹介
この1年も多くの循環器領域に関連する大規模臨床試験結果が発表された。そのなかで,特に注目すべき代表的な論文をいくつか挙げてみたい。まず心不全関連では,PARADIGM-HFであろう。収縮不全の患者において,アンジオテンシン受容体―ネプリライシン阻害薬LCZ696がエナラプリルに比べて,一次エンドポイント(心血管死と心不全による初回入院)の発生を20%も抑制した。心不全治療においてはゴールデンスタンダードであるACE阻害薬を有意に上回る結果であり,世界的に急増している心不全患者にとっては大変な朗報である。高コレステロール血症に関しては,ODYSSEY LONG TERM,OSLER-1,2,RUTHERFORD-2など,新しく開発されたPCSK9阻害薬を用いた臨床試験結果が発表された。いずれの試験においても,PCSK9阻害薬の強力なLDLコレステロール低下作用が示され,一部心血管有害事象の抑制も示された。糖尿病薬に関しても,待望の試験が発表された。DPP-4阻害薬による心血管イベントや心不全に対する効果をみたTECOSである。DPP-4阻害薬に対しては,その作用機序や動物実験の結果から,心血管イベント抑制に関して大いに期待されたものの,それまで発表された臨床試験結果がいずれもネガティブであったことから,規模の最も大きい試験であるTECOSが注目されていた。その結果は,一部のDPP-4阻害薬を用いた試験でみられた心不全の増加はなかったものの,心血管イベントを減少させることはなかった。ほかにも大規模臨床試験ならではの興味深い結果が得られた試験について簡単に触れる。薬剤溶出ステント留置後,抗血小板薬2剤併用治療をいつまで継続するべきかに関しては,薬剤溶出ステント登場以来大きな問題であった。ARCTIC-Interruptionでは,1年以上抗血小板薬2剤併用を継続した群とアスピリン単剤治療をした群とでは,ステント血栓症に有意差はなく,出血は2剤併用群で多かった。心房細動のレートコントロールには,β遮断薬,Ca拮抗薬と並んでジゴキシンを用いることがあるが,その有効性に関しては未知であった。大規模コホート研究のデータを用いた後ろ向き解析TREAT-AFによると,ジゴキシン投与は死亡と有意に関連していた。
「循環器大規模臨床試験要約集 2015年版」も日常診療に有用な情報が満載である。先生方の明日からの診療に役立つことを祈念したい。
(小室一成「序文」より)
目次
【虚血性心疾患】
【弁膜症】
【不整脈】
【心不全】
【脂質異常症】
【脳卒中】
【高コレステロール血症】
【冠動脈疾患】
【大動脈疾患】
【糖尿病】
【その他】