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内容紹介
今ようやくここに『ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明 ~診療と医学の最前線~』を皆様にお届けする。企画を始めてからほぼ1年越しで完成を迎えた。学問の最新を追求しながら,高尿酸血症に興味をもつ医師,栄養士,看護師,保健師,学生,誰にでも取っ付きやすく,見やすく,そしてわかりやすくなるように執筆をお願いした。全原稿を読んでみてその目標は大いに達成されたと感じることができる。1つひとつの原稿に執筆者の思いを感じることができ,これだけ力の入った原稿をご執筆いただいた全執筆者に心より感謝したい。
本書で多くの先生方が語られるように,尿酸の歴史は新しい。
進化学的には,霊長類以降の遺伝子変異によるウリカーゼの活性低下・欠損により血中に多くの尿酸が存在するようになった。よってわれわれ人類は高濃度の尿酸と共存することを運命づけられた。その遺伝子進化学的そして生理的な意味として,尿酸の酸化ストレススカベンジャー作用,またアナボリックに糖新生や脂質合成を増やす作用より倹約因子としての意義が想定されている。しかし,その存在が現在の過栄養の状態において有益な濃度を超え“高尿酸血症”状態となった際には,逆に酸化ストレス産生亢進,糖・脂質代謝異常,さらには他の機序やこれらの蓄積による種々の細胞・臓器障害が引き起こされてくる。
医学的には,高尿酸血症は痛風の前状態としての認識のみがなされてきて,それ自体の病態学的意義が深く顧みられることはほとんどなかった。肥満をはじめとしてさまざまな代謝異常の随伴症候としては認識されていたが,病態学的に上流因子として関与するという考え方はきわめて希薄であった。しかしそのような状況を,近年の日本人が果たした大きな医学・薬理・医療学的貢献が一変させたといえる。尿酸トランスポーターの発見,新たな選択的XOR阻害薬の開発,そして高尿酸血症そのものを医療の対象として国が正式に承認するよう働きかけた多くの先人たちの努力によって,“高尿酸血症”という病因学・病態学にわたる新しい医学の歴史が始まった。
本書では“高尿酸血症”の多くの罪過が述べられる。他種類の細胞・臓器への複数の機序による障害機構,また実験医学的,臨床疫学的,そして生物学的に最新の知見が紹介される。これから必要となるのは,“高尿酸血症”治療により本当にマスとして人が救われていくのか否かである。そのことを明らかにするためにいくつかの研究が進みつつあるが,まずはしっかり最新の知見・見解を勉強し,自分(自分たち)がお会いする患者さんに中長期的な視点で“高尿酸血症”に対しての最良の治療を考えていくことが大切だと思う。本書が,皆様の力を通してそのような患者さんたちに確かに役立たれることを願っている。
(下村伊一郎・益崎裕章「序文」より)
目次
Chapter 1 Over View
古くて新しい高尿酸血症/松澤佑次
Chapter 2 New Trends
高尿酸血症の病態解明のあゆみ/藏城雅文
Chapter 3 Close Up
新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)
~高尿酸血症と関連病態におけるXORの病態的意義~/益崎裕章/下村伊一郎
Chapter 4 Basic Lecture ~高尿酸血症の病態~
1)炎症と尿酸代謝/南 勲/小川佳宏
2)キサンチンオキシダーゼと尿酸に起因する酸化ストレス/福原淳範/下村伊一郎
3)痛風とNLRP3インフラマソーム/齊藤達哉/三澤拓馬/審良静男
Chapter 5 Practice ~種々の疾患リスクとしての高尿酸血症
1.循環器疾患と尿酸代謝の関わり
①心疾患の発症と予後
1)虚血性心疾患/小島 淳/小川久雄
2)心不全/筒井裕之
3)心房細動/庭野慎一/阿古潤哉
②動脈硬化(尿酸と血管リモデリング)の形成と進展
1)血管内皮機能/諸岡俊文/野出孝一
2)自然免疫機構(好中球細胞外トラップ)/新井康之/山下浩平
3)アテローム性動脈硬化/櫛山暁史
4)血栓/西澤 徹/野村昌作
2.肥満と尿酸代謝の関わり
1)肥満症・メタボリックシンドローム/西澤 均/船橋 徹
2)インスリン抵抗性・糖代謝異常/島袋充生
3.腎疾患と尿酸代謝の関わり
1)CKD/井関邦敏/恒吉章治
2)尿酸塩と腎障害/猪阪善隆/楽木宏実
3)キサンチンオキシダーゼと腎障害/仲川孝彦
4.トピックス:尿酸代謝との関連性が注目されている疾患群
1)NASH・NAFLD/西原利治
2)腫瘍崩壊症候群(TLS)/山内高弘/森田美穂子/上田孝典
3)乾癬/多田弥生
4)神経疾患と酸化ストレスにおける尿酸代謝経路/木下 允/中辻裕司