内容紹介
わが国は現在、少子化問題という喫緊の課題を抱えている。このまま出生率の低迷が続けば、将来は間違いなく人口減となり、国力の低下という非常に重大な事態を招くであろう。少子化に至った最大の原因はライフスタイルの変化である。女性の社会進出が進むに伴い、晩産化あるいは産まない選択が増えた。しかしその陰には、“子どもが欲しくてもできない女性”がいるという産婦人科医として見過ごせない現実もある。挙児が叶わぬ理由は様々だが、わが国で予防が可能な子宮頸癌あるいはその前駆病変が、妊娠・出産時期と重なる20~30代に増加していることが原因のひとつになってはならない。
子宮頸癌は紀元前450年には既に記録されていたほど長年にわたり多くの女性を苦しめ、われわれ産婦人科医と連綿とした闘いを続けてきた。しかし近年その自然史が解明され、定期的な検診とワクチン接種でHPV感染による子宮頸癌は未然に発症を防げるようになった。そのため世界各国は予防対策に力を入れ、子宮頸癌の征圧をめざしている。しかしながらわが国では、検診受診率は低迷し、ワクチン接種率は積極的接種勧奨が一時中止された以前の高接種率まで回復させるには時間を要する状況にある。
これを打破するには、産婦人科医が率先して子宮頸癌の恐ろしさを啓発し、検診受診を促し、安心してワクチン接種を受け容れられる環境を整えていくしかない。さらに、潜在患者を発掘して早期発見・早期治療を遂行し、患者の妊孕能と生命を守る役目も果たしていかなければならない。そのためには日々研鑽を重ね、己の知識・技術のバージョンアップを図ることが必須である。
本書は第一線で活躍されている婦人科腫瘍専門医の先生方にご協力いただき、子宮頸癌に関する啓発から予防・管理・治療までをトータルで伝えられる一冊とした。本書が読者の今後の方向性に活用され、将来の子宮頸癌征圧に役立つことを願う。
末筆ながら、本書制作にあたりご尽力いただいた先生方に深甚の謝意を申し上げる。
(小西郁生「はじめに」より)
目次
第Ⅰ章 子宮頸癌を取り巻く変化
〔巻頭対談〕子宮頸癌を取り巻く変化―早期発見・早期治療から予防へ―/小西郁生/嘉村敏治
第Ⅱ章 子宮頸癌のトータルマネジメント
1.ハイリスクHPVの特徴/藤村正樹
2.産婦人科実地医家における予防対策
[1]CINとは/寺井義人
[2]異形成、子宮頸癌のインフォームドコンセント
検査と治療方針の理解/伊藤 潔
精神的サポートの必要性/小田瑞惠
沖縄県の現状と課題/長井 裕
3.病診連携で推進する子宮頸癌対策
[1]CIN病変の管理/久布白兼行/武谷千晶/小宮山慎一
[2]術後管理と経過観察/横山正俊
4.産婦人科腫瘍専門医が担う啓発
[1]産婦人科実地医家、他科医師との連携/小林陽一
[2]医療スタッフへの啓発/鈴木彩子
[3]キャッチアップ世代・成人女性への啓発/宮城悦子
〔特別寄稿〕産婦人科医の立場で行う10代からのがん教育/片渕秀隆
第Ⅲ章 HPVワクチン―蓄積されたエビデンスの価値―
1.患者動向の変化/深澤一雄
2.抗体価持続のエビデンス/中村隆文
3.医療経済効果/松浦祐介
4.HPV型を問わない予防効果―クロスプロテクションを検証する―/松本光司
5.本邦におけるHPVワクチンのエビデンス/今野 良
6.子宮頸部円錐切除術後のワクチン接種/田畑 務
〔特別寄稿〕成人女性のワクチン接種/髙野浩邦/佐々木寛
第Ⅳ章 治療と今後の展望
1.子宮頸がん検診の進化―本邦の検診事情と将来像―/藤原寛行
京都府における子宮頸がん検診の現状と課題/澤田守男
2.最新の子宮頸癌治療
[1]妊孕性温存療法はどこまで可能か
子宮頸部円錐切除術と広汎子宮頸部摘出術/小林裕明
LEEP法/本郷淳司
レーザー蒸散術/藤井多久磨
妊婦の頸癌および前癌病変とその対策/榎本隆之
[2]開腹手術、ロボット手術/万代昌紀
[3]同時化学放射線療法(CCRT)―子宮頸癌に対する有効性と今後の課題―/阪埜浩司/西尾 浩/青木大輔
3.〔最新トピック座談会〕次世代の子宮頸癌予防と治療/鈴木光明/嵯峨 泰/近藤一成