内容紹介
我が国の死因の第1位は悪性新生物であり,その中で1999年以降,肺癌が癌死因の第1位となり,2011年には年間死亡数が7万人あまりにまで増加している。肺癌の罹患率は今後も増え続けると考えられており,肺癌治療の重要性は依然高い。シスプラチンが臨床導入され,小細胞肺癌,非小細胞肺癌ともに治療成績が向上し,標準的治療が確立したものの,その程度は満足できるものではなく,新しい治療法の開発が望まれている状況が続いていた。
近年、腺癌を中心とした非扁平上皮癌ではdriver mutationと呼ばれる癌の発生および増殖,浸潤,転移に大きく関わる遺伝子変異の存在が明らかとなり,その遺伝子変異に特異的,選択的に作用して抗腫瘍効果を現す分子標的薬剤が開発され,治療成績が飛躍的に向上したとともに,肺癌治療を根本的に変革させた。また,進行期の症例だけでなく,早期および局所進行期の肺癌においても手術や放射線治療に化学療法を組み合わせた集学的治療の普及や高齢者への対応など以前と比較し,明らかに肺癌治療は複雑となった。それに呼応するように実地医療においてもエビデンスに基づいたEBMの重要性が謳われ,それに伴い各癌腫の治療ガイドラインも作成され,「肺癌診療ガイドライン」も同様に普及するに至った。肺癌治療を実施する先生方において,ガイドラインはいわゆる「てすり」として重要な役割を示しているものと思われるが,本書はさらにより具体性を重んじるため,実際の症例を呈示し,どのような治療が施されたか,それに対し,コメンテーターの先生に意見をいただき,さまざまな観点から学習できる内容にいたしました。また,診断や治療の総説編も含めており,この1冊で肺癌の総論,各論を学べるような構成にしており,今後の肺癌治療に役立ててもらえば幸いです。
倉田宝保・仁保誠治
(「序文」より)
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目次
[総説編]
Ⅰ 肺癌の診断
Ⅱ 肺癌治療の動向―現状と展望
1.外科療法
2.放射線療法
3.化学療法
4.化学放射線療法
[症例検討編]
【非小細胞肺癌】
Ⅰ 術後補助化学療法
1.肺腺癌右上葉切除後(pT2NOMO 病期ⅠB期)に対するテガフール・ウラシル配合剤内服治療を施行した1自験例
2.術後病期ⅢA期の非小細胞肺癌に術後補助化学療法としてシスプラチン+ビノレルビン併用療法を行った1自験例
Ⅱ 化学放射線療法
1.臨床病期ⅢA期single station N2の局所進行非小細胞肺癌症例に対するシスプラチン+ドセタキセル併用化学放射線療法の1自験例
2.局所進行非小細胞肺癌に対するシスプラチン+ビノレルビン併用療法,同時胸部放射線治療の1自験例
3.81歳,PS 0,病期ⅢA期の局所進行非小細胞肺癌に対し,低用量連日カルボプラチンと放射線治療を併用した1自験例
Ⅲ 進行期(Ⅳ期)―EGFR遺伝子変異陽性例
1.62歳,PS 1,Ⅳ期のEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌の一次治療にゲフィチニブを投与した1自験例
2.65歳,PS 1,EGFR遺伝子変異陽性進行肺腺癌に対し,プラチナ製剤併用化学療法後ゲフィチニブ投与を行った1例
3.83歳,病期Ⅳ期,EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌に対し一次治療としてゲフィチニブ単剤療法を行い,奏効を得た1自験例
4.ゲフィチニブ耐性となった肺腺癌再発例に対し,カルボプラチン+ペメトレキセド療法が奏効した1例
5.一次治療としてゲフィチニブ投与中に生じた脳転移に対しサイバーナイフにより局所コントロールを行いながら投与継続ができた1自験例
6.初回ゲフィチニブ投与中,髄膜炎で再発した1自験例
7.初回ゲフィチニブ投与中,重度の肝機能障害が出現した1自験例
Ⅳ ALK融合遺伝子変異陽性例
1.60歳,PS 1,Ⅳ期肺腺癌患者に対し,クリゾチニブを投与し奏効した1例
2.ALK融合遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対するカルボプラチン+ペメトレキセド併用化学療法の1自験例
3.初回クリゾチニブ投与後に再発し,プラチナ製剤併用化学療法にて部分奏効を得た1自験例
4.臨床病期Ⅳ期の肺腺癌に対し,一次治療としてクリゾチニブを投与中に脳転移が認められた1自験例
Ⅴ EGFR,ALK遺伝子変異陰性あるいは不明例
1.肺腺癌Ⅳ期症例に対するシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法の1自験例
2.71歳,PS 1,臨床病期Ⅳ期の肺扁平上皮癌に対してシスプラチン+ゲムシタビン併用化学療法を施行し病勢安定を得た1自験例
3.78歳,PS 1の進行非小細胞肺癌の一次治療としてドセタキセル単剤療法を行い,部分奏効を得た1自験例
4.83歳,PS 1,切除不能扁平上皮非小細胞肺癌に対し,ドセタキセル単剤療法で奏効を得た1自験例
5.62歳男性,PS 2,病期Ⅳ期の非扁平上皮非小細胞肺癌の初回治療としてカルボプラチン,パクリタキセル,ベバシズマブ併用療法を行った1自験例
6.65歳,PS 1,病期Ⅳ期の肺腺癌に対し,初回プラチナ製剤+ペメトレキセド療法ののち,ドセタキセル単剤療法を行った1自験例
7.58歳,PS 1の扁平上皮癌の二次治療としてドセタキセル単剤療法を行った1自験例
8.60歳,病期ⅢB期,EGFR遺伝子変異不明,肺腺癌の非喫煙女性患者に対し,二次治療としてエルロチニブ単剤療法を行った1自験例
【小細胞肺癌】
Ⅵ
1.限局型小細胞肺癌に対してEP療法,加速過分割照射による早期同時併用胸部放射線治療で完全奏効が得られ,予防的全脳照射を施行した自験例
2.高齢者の限局型小細胞肺癌に対するカルボプラチン+エトポシド併用化学療法後の逐次過分割放射線治療の1自験例
3.62歳,PS 1の進行型小細胞肺癌にPI療法,AMR単剤療法,PE療法,NGT単剤療法を行った1自験例
4.76歳,PS 1,進展型小細胞肺癌にカルボプラチン+エトポシド併用化学療法を行った1自験例
5.小細胞肺癌sensitive relapse例に対するリチャレンジの1自験例
6.61歳,PS 1,病期Ⅳ期の進展型小細胞肺癌refractory relapse症例にアムルビシンを投与して長期予後が得られた1自験例