内容紹介
最近の疫学調査の結果によると、アレルギー性疾患の有病率は40%を超えるとされ、
国民のおよそ二人に一人が罹患している非常にありふれた疾患となっています。アレルゲ
ンの中で最も感作頻度が高いのは食物アレルゲンや経皮アレルゲンではなく、吸入性アレ
ルゲン(鼻粘膜、気道粘膜を介して体内に侵入してくるアレルゲン)である、ダニとスギで
す。同時にアレルギー性疾患の中でも最も有病率が高いのは気道アレルギー疾患である、
アレルギー性鼻炎と喘息です。このように、経気道的な抗原感作ルートは、環境中のアレ
ルゲンへのヒトの最も代表的な感作様式であり、吸入性アレルゲンは我々の健康に非常に
大きな影響を与えています。
多くの研究で、吸入性アレルゲンへの暴露と感作が、吸入性アレルギー性疾患の発症と
重症化の危険因子であることが示されています。また、発症した患者においては、環境ア
レルゲン回避はその疾患コントロールにおける最重要事項です。したがって、アレルギー
性疾患患者さんの長期管理において、原因アレルゲンの適切な同定と、適切なアレルゲン
回避指導を行う必要があります。同時に、そのために吸入性アレルゲンへの詳細な知識が
必要となってきます。
しかし、吸入性アレルゲンに関する知識は、その生物種の特徴、そのアレルゲンタンパ
ク質の特徴、アレルゲンタンパク同士の交差反応性など、幅広い情報を含みます。さら
に、臨床的に重要なアレルゲン種は非常に多く、それぞれに対する知識をアレルギーを専
門としない一般医師が入手することは容易ではありませんでした。そこで本書は、主にア
レルギーを専門としない一般医師を対象に、吸入性アレルゲンに関する知識を効率よく整
理し理解して頂き、日々の診療に役立つ情報となるべく作成しました。また、皮膚テス
トや血液特異的IgE抗体価検査など、原因アレルゲン診断に役に立つ情報も同時に記載い
たしました。
なお、本書は、独立行政法人環境再生保全機構、第9期環境保健調査研究「吸入アレ
ルゲン回避のための室内環境整備の手法と予防効果(研究班代表 福冨友馬)」の研究成果
をもとにして作成しております。また、本書は気管支喘息、アレルギー性鼻炎を中心と
した即時型アレルギー(1型アレルギー)疾患のみを対象とし、その他のタイプの吸入性ア
レルギー性疾患(過敏性肺炎など)に関する情報は割愛させて頂いております。
本書が、アレルギー性疾患を診る先生方のお役に立てることを祈念しております。
(谷口正実 福冨友馬「序」より)
目次
序章 吸入性アレルゲンの同定―谷口正実
第Ⅰ章 吸入性アレルゲン
●ダニ
<生物学的側面と環境中の分布状況>―川上祐司
<臨床的側面>/福冨友馬
①コナヒョウヒダニ・ヤケヒョウヒダニ
●花粉
<生物学的側面と環境中の分布状況>―佐橋紀男
<臨床的側面>―福冨友馬
①ヒノキ科:スギとヒノキの花粉
②カバノキ科:ハンノキ、オオバヤシャブシ、シラカンバの花粉
③その他の春の木本花粉
④イネ科花粉
⑤キク科:ブタクサ、ヨモギの花粉
⑥その他の草本花粉
●真菌
<生物学的側面と環境中の分布状況>―高鳥浩介
<臨床的側面>―谷口正実
①Aspergillus fumigatus(コウジカビの一種)
②Penicillium(アオカビ)
③Cladosporium(クロカビ)
④Alternaria(ススカビ)
⑤好乾性真菌
⑥その他(皮膚糸状菌と酵母)
●ペット
<生物学的側面と環境中の分布状況>―阪口雅弘
<臨床的側面>―福冨友馬
①イヌ、ネコ
②その他の動物
●昆虫
<生物学的側面と環境中の分布状況>―川上裕司
<臨床的側面>―福冨友馬
①ガ、ゴキブリ
②チャタテムシ、ユスリカ、その他
●アレルゲンの回避策―西岡謙二、福冨友馬
第Ⅱ章 原因アレルゲン同定方法―福冨友馬
・特異的lgE抗体測定法
・皮膚テスト
第Ⅲ章 アレルゲンQ&A―福冨友馬、谷口正実