内容紹介
中嶋先生とは12年前に横浜の内視鏡専門施設で出会った。当時、大腸内視鏡の挿入技術が未だ発展途上だった先生が12年間でここまでの本を仕上げるとは・・・・。驚きと感動を持って本書を読み終えた。内容の高度さだけでなく,「伝えたい」という想いの強さ,言語化への執念には脱帽した。症例を積み重ねるだけではここまでの表現はできないはず。挿入シーンをビデオ録画し,何度も見直しながら各ポイントの越え方を分析し,言語化するという気の遠くなるような作業を続けた成果であろう。自己や編集者と格闘しながら決して妥協せずに細部の表現法にもこだわった執念も各所からほとばしっている。「最高の挿入の教科書にしたい」という想いは十分に達成されているように思う。その熱意がページ数の増加や初心者にとっての難解さにつながっているかもしれないが,決して無駄な個所はなく,読み返すほどにその奥深さが伝わってくるはずだ。
ただし,挿入法は画一的なものではない。より苦痛が少なく,見落としが少ない検査であれば様々なスタイルがあってよいはず。本書は“一つのスタンダート”として捉えたら良いと思う。本書は初・中級者のバイブルとなることは間違いないし,上級者にとっても学びの多い本になるだろう。
本書によって挿入論の教科書は完成形に近いものが出来た。だが,あえて言いたい。技術は魔物であると。それが優れているだけで一流の内視鏡医になったかのような錯覚を起こさせる。技術はあくまでも技術。必須条件だが,それ以外にも適応の決め方から正確な診断,苦痛の少ない安全な検査の実施,優れたマナー,検査後の患者への丁寧・適切な説明(症状があって検査したにも関わらず,その原因に対するコメントはせずに,見えた病変,もしくは病変がなかったという説明しかしない医師が多すぎる)など重要なことは多い。どれ一つを欠いても一流とは言えない。中嶋先生にはその到達目標が見えているはず。今後はさらなる精進を重ね,究極のバランスに一歩でも近づき,いずれは大腸内視鏡の『道』を示す本を作ってもらいたい。
(井上冬彦「推薦の言葉」より)
中嶋清司先生との出会いは,10年以上前,当時私が勤務していた横浜にある(恵仁会)松島病院大腸肛門病センター・松島クリニックに1年間研修に来た時である。当時は、全大腸内視鏡検査をおこなうにあたって,ある程度の挿入法は確立されていたものの,決定的な成書は存在していなかった。私の在職していた松島クリニックには,東京慈恵会医科大学入学時からの同級生である鈴木康元医師(現在でも松島クリニック在職中)や野澤博副院長,西野晴夫院長等,大腸内視鏡検査のエキスパートがおられ,全国から多数の研修生が集まってくるような状況であった。この中の一人が中嶋清司先生であったわけである。今回先生の書かれた本を見て驚いたのは,私や鈴木医師等が当時マンツーマンで指導していた内容をさらにグレードアップさせ上手に表現していることだ。全大腸内視鏡検査は,現在日本の消化器内視鏡医にとっては必須課題である。これだけ大腸癌や炎症性腸疾患が増加してくると,避けては通れないのである。したがって,より効率よく全大腸内視鏡検査を施行できるようになることが,まず出発点といえよう。この意味から,基本が忠実に書かれている本書を熟読していただき,より良い指導者についていただいて全大腸内視鏡検査に取り組んでいただくことが最良といえよう。というのは,本を読んただけでは,理解できないことも多々存在するからだ。可能であれば,本書を精読して中嶋清司先生のもとで全大腸内視鏡検査の訓練を受けることが望ましいといえる。これが全大腸内視鏡検査を自由自在におこないうる近道なのだ。
(松生恒夫「推薦の言葉」より)
大腸内視鏡挿入法には決まった道順があります。
大腸内視鏡挿入法のテクニックは難しく,それらを解説した書籍は数多く存在しますが,今ひとつ心に響きにくい内容のものが多いように思われます。様々な書籍や論文を読んでいるうちに,より明解でわかりやすい挿入理論を紹介したくて,2005年2月より『若手ドクターのための大腸内視鏡検査法』と題したブログを始めました。そして,2009年1月に,その集大成として,ブログ上で掲載してきた多くの記事をひとつにまとめたブログ本『若手ドクターのための大腸内視鏡検査法』(メディカルレビュー社)を出版しました。しかし,本心としては,純粋な大腸内視鏡挿入法の教科書を作りたいという強い想いがあって,約4年をかけて,今回の単行本を完成させました。
本書は『大腸内視鏡挿入法の教科書』であり,初級者や中級者を対象に書いたものですが,上級者や指導者にも,ひらめきを与えるものとなるように工夫しました。最初に『挿入法の基本的な考え方』を示して,次に『スコープの基本操作法』の重要性を解説しています。自由自在のスコープヘッドコントロールができない人は,正しいスコープの基本操作法が理解できていないのかもしれません。腸管屈曲部を捉えるテクニック,腸管を畳み込むテクニック,スコープのループ形成を解除するテクニック等がありますが,それぞれが上達すればするほど様々な「技」が繰り出せるようになっていきます。
そして,サブタイトルにある『挿入パターンと道順』というメインテーマへと続いていきます。大腸内視鏡挿入法には,実は「決まった道順」があります。簡単な症例では既に道順が現れていて,そのまま進めていくだけで簡単に挿入できてしまうのです。複雑な走行で挿入難易度の高い症例であっても,手前~手前から丁寧に引き込みながら,直腸S状結腸移行部(RSJ)やS状結腸頂上部(S-top)といったポイントとなる屈曲部を確実にクリアしていくことで,簡単な症例のときと同じ内視鏡画像,同じ道順が必ず現れてきます。この決まった道順を理解して覚えていると,症例の挿入難易度に振り回されずに,限られた挿入パターンだけで挿入していくことが可能となり,被験者に「苦痛の少ない大腸内視鏡検査」を提供できるようになります。
本書がスクリーニング・コロノスコピーの発展に役立つことを心より願っております。
(中嶋 清司「はじめに」より抜粋)
関連書籍
目次
Ⅰ 挿入法の基本的な考え方
1.腸管は伸展しながら捻れるもの
2.大腸内視鏡挿入法における『軸』とは
3.挿入法を前半と後半に分ける
4.S状結腸のループ形成パターンを理解する
Ⅱ スコープの基本操作法
1.スコープヘッドコントロール
2.Hooking the Fold法~腸管屈曲部の捉え方
3.Right & Down~Right turn shortening法
4.ループ形成解除法の基本
Ⅲ 挿入パターンと道順
1.直腸~直腸S状結腸移行部(RSJ)
2.直腸S状結腸移行部(RSJ)~下部S状結腸
3.S状結腸頂上部(S-top)~上部S状結腸~S状結腸下行結腸移行部(SDJ)
4.脾彎曲部(SF)における完全ストレート化
5.下行結腸~脾彎曲部(SF)
6.脾彎曲部(SF)~横行結腸中央部(MT)
7.横行結腸中央部(MT)~肝彎曲部(HF)
8.肝彎曲部(HF)~上行結腸・盲腸
Ⅳ 挿入困難となる症例
1.術後腸管癒着症例
2.S状結腸多発憩室症
3.過長S状結腸症例~高位S-top,M字型S-top
4.裏ループパターン